白い感覚。

唐突だが。漫画家「しりあがり寿」という人物をご存知であろうか。

わかりやすい所で言うと、クドカンこと宮藤官九郎氏の監督した映画『真夜中の弥次さん喜多さん』の原作者である。
(この映画は当時バンドメンバーと映画館で観たのだが、観終わった後に皆が口をそろえて「麻生久美子の生足がたまらん。」と言っていた。僕はちょうどそのシーンの時、母からの電話に出ており見逃してしまっている。とっても残念である。)

僕が初めて手にしたしりあがり氏の作品もその『弥次喜多』だった。
たぶん2003年頃の事だと思う。最初読んだ時はもう、わけわからんかった。いや、わけわからん漫画だろうなぁと思って買ったのだが、予想を超えてわけわからんかった。
当時の僕は今よりもっと理屈屋で、今よりもっとアタマも固く、ツジツマの合わないものは敵とみなして、何に対してもとにかく「明確な答え」を求めていた。すべて理屈で解決してやんぜッ!てなぐあいにギラギラでガチンガチンの脳の持ち主だった。
そんな感じだから、当時の僕は開いて2、3ページ目で、だんご屋のオヤジの姿がヘチマになった時点でもう、手に持った漫画にメンチを切っていた。しばらく読み進めるも、ツジツマもクソも無く、一コマペースで更新される不可解な展開に、ついには漫画を閉じ、不機嫌をあらわにした顔面でタバコを吸い、気付けばさっきまでのその時間を曖昧に煙にまく事に専念していた。そうして時間が過ぎ、月日が流れた。

人間、不思議なものでちょっと前まで好みでは無かったモノに急に興味がわく事がある。中学生の頃は糞ダサいと思っていたビッグスクーターが、高2くらいで急にカッコ良く見え出すアノ感じ。アノ不思議。

ソノ不思議が『弥次喜多』初見の数ヶ月後に僕の中に現れ、無性にまた読みたくなり手にとってみるとアラ不思議、アノ不思議。超すんなりストーリーが僕の脳髄に流れ込んでくる。しかも物凄く気持ちイイ。そして読んでいるうちに気付く。これはアタマで考える「理屈」では無く、脳で受け取る「感覚」でストーリーが僕に流れ込んでいるのだ!と。めっちゃ気持ちイイったらない。
1巻を読み終えた僕は、すぐのこりの巻を集めようと本屋に脱兎のごとくダッシュした。

そうして今では、しりあがり氏の作品をいくつか所持し、隙あらばコレ等を読み返している。

※右上の『ゲロゲロプースカ』の隣に立っている表紙が黒っぽく写っている本は、つげ義春氏の文庫版の『ねじ式』と『李さん一家』。つげ義春氏の作品も僕としては、とても「感覚」的である。

前置きが思ったより長くなったが、僕は今しがた、そのしりあがり寿氏の『双子のオヤジ』という単行本を読み終えたトコロなのである。

この『双子のオヤジ』がヒジョーに僕の脳髄にフィットしたのでテンションあがってそのままこの文を書いているという状態の現状なワケである。
読んでいて、コレ僕じゃん、と思うくらいにジャストフィット。

内容は、どこだかは誰にもわからないとにかく物凄い山奥に双子のオヤジがいる。双子のオヤジは2人で支離滅裂ながらも、問題を提示して考えてみたり、思いつきでやってみたい事をやってみたりしてすごしている。

ただそれだけの内容。

なんかジタバタっぷりというか、ドタバタっぷりというか、言いたい事はあるんだけど、ごにょごにょぐちゃぐちゃして、ほへーっておわる感じが、この日記とちょっと似てるな〜と、勝手に思ってなんか変にテンション上がってしまったのだ。


あと、しりあがり寿氏も、つげ義春氏も共通して「白い」感覚の作品が多くて好き。空洞感というのか何というのか。絶望とか希望とか自分の内側にあるものでの表現ではなくて、外側からの表現。時には絶/希望よりも重いんだけど、重いという感覚すら無い所からの表現。…ん、うまく言えんわ。まぁいいや。


そう、それで驚くのは『双子のオヤジ』は10年以上前に描かれたモノなのが衝撃。色あせないテーマで描かれている証拠である。
衝撃ついでに、2007年に発売されたしりあがり氏の『ゲロゲロプースカ』という作品の設定は「放射能が世界中に広がった後」の物語。むぅん。
この『ゲロゲロプースカ』と、去年の3月11日の後に緊急出版された『あの日からのマンガ』は今読んでおきたい漫画のトップではないだろうか。どうだろうか。僕はこれらを読んではアタマをぐるぐるさせて唸るばかりである。



どうしようか。テンションにまかせて書き出したから、着地点が見つからない。



とにかく、僕はしりあがり寿氏の作品が好きであり、『弥次喜多』は僕のバイブルなのであり、『双子のオヤジ』も買って良かったなぁ、と思っている現在なのだ。



締めに、「白い」感覚について考えていた時にできた詩を一部分だけのせて終わろう。だいぶ前からできてる曲だがまだライブではやっていない曲の詩。この詩に、タイトルは無い。





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ぼんやり屋はここに立ってるよ

うっかり君の声忘れるよ


曖昧な手を起こしたら、外に連れてって

こんなにも白い世界から、僕を連れ出して


線をえがく事

そして

もう嫌になる事

そして

幾つもの夜をこえる事


永遠をただでもし拾っても

延々ただ寝坊し

そして

幾つもの夜をこえる。


急いても遅れても さして変わらぬ様子

ジョークをとばしても 何も紛れぬ今日

そうでしょう 誰もが何もわからぬまま

遠くのカモメ 水平線を飛んで行く



「ハロー。」




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おわり。